杉本博司の世界の知覚の方法:マルセル・デュシャン➤リレーション


つねに数百の撮影アイデアが頭の中を駆け巡っている杉本博司のインスピレーションの矢を特定することは叶わない。無限の矢が内から外から、過去から未来から、天上から地下から、可視のものから不可視のものから放たれている。インスピレーションの矢にも太くて大容量のものがある。それがマルセル・デュシャン➤リレーションだ。デュシャンの「彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも(大ガラス)」(1915-23)はその透明なガラスの効果で、そこに映し出されてしまう背景と視覚的レベルで世界と混じりあう仕掛けをつくりだした。その背景は動きつづけるレディーメイド(既製品)である。杉本は2004年、この『大ガラス』の複製を撮影し、デュシャンのそれと同じように2枚のガラスの間に、撮影したその作品のネガとプリントを射し込んだのだった。デュシャン➤リレーションは杉本博司にとってやはり特別で、その系から「概念の形」シリーズと「数学的形体:曲面」のシリーズだ。杉本博司のインスピレーションの発火は生きているうちはやみそうもない。否、彼自身が鑞人形と化してもそれは続きそうだ...