SFの父・ジュール・ヴェルヌのマインド・ツリー(心の樹)(1)-反抗と想像力

ヴェルヌ幼年期の心の土壌

3D技術を駆使した映画『アバター』は、SF映画ならではのイマジネーションで観客をあっと言わしめましが、H.G.ウェルズとともに「サイエンス・フィクション(SF)の父」と呼ばれるジュール・ヴェルヌはいかにしてSF(空想科学小説)を創造しえたのでしょうか。ジュール・ヴェルヌの”心の樹(マインド・ツリー)”を描いてみると、その創造の秘密があらわれてきます。
ジュール・ヴェルヌは、大西洋に突き出したあのモン・サン・ミッシェルのさらに南方のロワール地方のナントの町に誕生しています(1828年2月8日)。『月世界旅行』『海底二万里』『八十日間世界一周』『十五少年漂流記二年間の休暇)』など当時の世界を驚喜させた冒険科学小説の生みの親は日々大海を感じることができた場所に生まれたのではと思われる方もいるかもしれませんが、空想ものの小説が生まれるには人並み外れた空想力がなくてはなりません。ジュール・ヴェルヌがフランスのナントの港町で生まれたことを知っている人は、そうかやはり海辺で生まれたのか、さもありなんとおもわれたことでしょう。「ヴェニスの商人」ならぬ「ナントの商人」という呼称を覚えておられる方もいるかもしれません。かつて東インド会社の貿易商人や奴隷商人が大挙して往来し交易する賑やかな港町でした。しかしナントの町は海辺に面していたわけではなく、なんと50キロほども内陸側に入り込んだ港町だったのです。日本でいえば木曽川中流に発生した交易の川辺の町で織田信長が交易の重要性を学んだ「岐阜」の町に幾らか近いものがあるかもしれません。ヴェルヌ少年が物心つく頃には一時期の活気のある面影はやや失せ、むしろいにしえの冒険譚や物語の方が生々しく息づいていた頃でした。ヴェルヌの母方の祖父はナントの中州にあるフェイド島の船主です。ヴェルヌ少年は航海での勇敢な話や賑やかだった港町のことをよく聞かされていたようです。目前の河さえ下れば大海に出れること、現実にはそれがままならないことが逆にヴェルヌ少年の想像力と反骨精神を逞しくしていったにちがいありません。

想像力豊かだった母、論理的な父

ヴェルヌ少年の想像力と反骨精神は両親によって育まれたことを忘れるわけにはいきません。母ソフィーはとても想像力豊かな女性だったようです。後にヴェルヌが法律の道を捨て文学の世界へ踏み出そうとする際にも後押しし、ヴェルヌの想像力が断ち切られないような役回りをします。一方、父は優秀な人物でしたがあまりに物事を論理的に考えるタイプでヴェルヌの自然な心の成長と活発な想像力を抑制する側に立っていました。後にインド行きの商船に乗り込んだ事件は、想像力と反骨心が入り交じったものといっても過言ではありません。▶(2)に続く


◉少年期: Topics◉ヴェルヌの母方の祖父がナントのフェイド島の船主だった以外にも、祖父の妻の父も北極エリアの航海士で、航海の話をヴェルヌ少年に聞かせていた。愛読書はダニエル・デフォーの「ロビンソン・クルーソー」で一人になった時はいつも読書をしていた。幼少の時(5〜6歳)に通っていた塾の経営者は、夫が海で行方不明になっている話を聞かせた。ヴェルヌ少年に海の魔力が入り込んでくる。

ジュール・ヴェルヌの「Mind Tree」を読むと、ぐんとヴェルヌの小説が近づいてきます。一度ぜひ読んでみましょう>

海底二万里 (創元SF文庫)
海底二万里 (創元SF文庫)荒川 浩充

おすすめ平均
stars魚が食べたくなる
stars子供の本ではない
stars普通の空想科学小説ではありません。
stars海洋サーガの傑作
stars19世紀の最先端技術がここに!

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ロビンソン・クルーソー (集英社文庫)
ロビンソン・クルーソー (集英社文庫)Daniel Defoe

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stars誰もが“なんとなく”ストーリーを知っている有名な作品。
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