SFの父・ジュール・ヴェルヌの「Mind Tree」(2)-空想と、科学的事実と

「僕はもう空想の中でしか旅をしないんだ」、そしてエドガー・アラン・ポーの小説でヒラメク

ヴェルヌ11歳の時のことです。ヴェルヌは好きになった従姉カロリーヌのため海の彼方で取った珊瑚の首飾りをプレゼントしたいと思い立ち実行に移します。少年水夫と話をつけインド行きの商船になんとか乗り込みますが、次の港で父親に見つかり大目玉をくらい失敗に終わります。当時ヴェルヌが語ったとうう「僕はもう空想の中でしか旅をしないんだ」という有名な話を覚えておられる方もいるかも知れません。その話の真偽は別として、「海の彼方で取った珊瑚の首飾りを...」という一心の思いでインド行き商船に乗り込むこと自体すでに空想の中にいたといえないでしょうか。その頃にはヴェルヌ少年は、「ロビンソン・クルーソー」を愛読していたので、見知らぬ土地に行ってみたいという年頃の少年のロマンチックな空想に火がついたのでしょう。それは同時に家(父親)に対する反抗だったようです。
その後、ヴェルヌ少年は彼の人生を左右する決定的な書籍と出会っています。それは科学的事実を小説の物語の中に見事に取り入れていた米国のミステリーの父、エドガー・アラン・ポーの小説でした。少年期から青年期にかけヴェルヌ少年は図書館に日参し科学雑誌や地図をあたってリサーチをしはじめました。そして気になる科学的事実に出くわすと後に使えるようにとノートにつけはじめたのです。科学技術が進歩すれば、大空へ南極へ、さらには深海や月へと飛翔していくことが可能になる。その冒険譚を物語る。これは想像力豊に育ったヴェルヌ少年にとって、とてつもない空想のエンジンを搭載することを意味しました。

父への反抗、劇作の道へ

こうしてジュール・ヴェルヌの”心の樹(マインド・ツリー)”は、地下茎が勢いよく地面を突き破るように、上空に向かって伸びだしました。が、”地上”では、冷たい”風”が待っていました。ヴェルヌは19歳の時パリに出ますがそれは、法曹界にいた父(代訴人)が長男に堅実な法律家となってヴェルヌ家を継がせようと法律の試験を受けさせたためでした。案の定、気が滅入るばかりのヴェルヌは試験に落ちてしまいます。ヴェルヌは翌年再びパリに出て以降ナントに戻ろうとはしませんでした。その意味するところは父の法律事務所に入ることへの拒否でした。ナントにいる時に、こっそり始めていた劇作をなんとかものにしようとヴェルヌは模索しつづけます。伯父のシャトブール画伯の紹介で出入りするようになったサロンでデュマ・ペール氏と出会い、1848年の革命時に閉鎖されていた劇場の書記となります。そして書いた喜劇が上演される機会に恵まれ、その後も軽演劇やオペレッタを書き続けました。劇場支配人にならないかという話を断ったのも書く時間が欲しいためでした。しかし経済的には苦しく、公証人の手助けをしたり法律の塾を開いたり、銀行で働き収入を得ている状態でした。
空想の飛翔はここパリにいてもとどまることはありません。少年期から興味をもったものにとにかく執着する粘液質の性格だったヴェルヌは、劇作をつづけながら冒険小説も書きだします。24歳の時に「家庭博物館」という雑誌に掲載された「風船旅行」(1851)は、後の大SF作家ジュール・ヴェルヌをすでに予感させるものでした。一枚一枚の木を組み合わせて帆船をつくるように、20代半ばの堅忍不抜の心を持ったヴェルヌは冒険小説を書き続けます。ヴェルヌの夢と人格が反映された冒険小説が書きつらねられるにつれ、ヴェルヌの「マインドツリー」はじょじょに、しかし確かな輪郭をともなって形成されていきます。


◉青年期: Topics◉ヴェルヌの姉はシャトーブール画伯と結婚し、ヴェルヌはその家に何度も遊びに行き前妻の兄弟だったシャトーブリアンの米国での冒険譚をよく聞いていたことも刺激になっています。19歳、ヴェルヌは恋心をよせていた従妹カロリーヌに求婚。カロリーヌはヴェルヌをあざわらうかのように数週間後に別の男性と結婚。絶望したヴェルヌはナントを去りパリに向かい、「無妻者十一人組」を結成します。23歳の時、父に手紙を書き「自分の精神は文学に集中し、この一点に固定されみじんも動かない」ことを知らせる。劇作を続けながらも、書きあげた冒険小説を関係をもった「家庭博物館」という雑誌に寄稿。「歴史研究、南アメリカ、メキシコの船の初期の航海」(1851)「風船旅行」(1851)「ザカリウス師」(1854)他。独身主義をとなえていたが28歳の時、友人の結婚式に出た時に知り合った(友人の相手の家族)2人の子供のある未亡人アノレーネと出会い翌年結婚。結婚式には知人友人の参列をいっさい拒み、母にも挙式の後に結婚の報告をしただけ。父は文学はどうするのか、と心配。妻の兄の紹介でパリの株式取引人に。書く時間が充分にとれる仕事だと割り切る。感受性に乏しい妻はヴェルヌの情熱や冒険小説には関心を持てず、亀裂はすぐに生じてしまい夫婦間は最後まで深い溝が開いたままに。「無妻者十一人組」には出席し続け、自分の書斎にわざわざ鍵をかけて閉じこもるようにして書くのがヴェルヌの日常だった。▶(2)へ続く

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