ドストエフスキーの「Mind Tree」(2)- 独特の家族朗読会

ドストエフスキー家の「家族朗読会」がマインドと知識を育てた

 さらに強くフョードルの”心の樹(マインド・ツリー)”を太く密に育てたのは、ドストエフスキー家独特の「家族朗読会」でした。
 夜には家族が客間に集まり父と母が交替で読む(後に兄弟たちも交替で読むようになります)ドストエフスキー家ならではの「家族朗読会」なるものがよくおこなわれました。今日、子供によく本を読んで聞かせる家庭であっても、少年少女期〜青年期初期頃になっても子供たちに本を読んで聞かせる家庭がどれだけあるでしょうか。ほとんど無きに等しいでしょう。後の大作家ドストエフスキーの”魂の樹(マインド・ツリー)”の根元のもっとも中心にある体験と記憶は、この家族全員が参加する「家族朗読会」が育んだものであったことは間違いないでしょう。
「家族朗読会」でよく読まれた書籍は、歴史ものでは『ロシア国史』全集のうち1921年以降に出版されたイワン雷帝の治世を記した9巻以降のもの(著者ニコライ-ミハイロヴィッチ-カラムジーン)。文学作品でジャルジャーヴィンの詩『神』、カラムジーン『ロシア人旅行者の手紙』、ヴェリトマン『心と思い』、ジェコーフスキー、ウォルター・スコット、ラジェーチニコフ『氷の家』、ザゴスキン『ユーリイ・ミロスラーフスキー』、ダーリ『コサックのルガンスキイの物語』で、当時のロシアとヨーロッパの近代文学の最新の成果がしっかりと選ばれていました。その読書から歴史観のみならず、センチメンタリズムやロマンティシズムの教養も家族で共有されたことは極めて重要なことといえます。
長男ミハイルは詩が大好きになり詩を書くようになりましたし、フョードルはといえば歴史ものと散文が好みになっていきます。同じものを皆で読み聞いてもちゃんとそれぞれの”魂の色”が反映されます。そして兄ミハイルとフョードルがともに高く評価していたのがプーシキンでした。フョードルは手にした作品は何度も読み返しほとんど全部の詩を暗記するほどでした。プーシキンは西欧近代文化の魅力に取り憑かれた後に、自身の幼年時代に触れた土着文化やフォークロアの民衆精神の古層の価値に回帰し、その探求に向かった重要な作家です。

「幼年期の美の印象」の大切さ

 フョードル10歳の頃、まだ滅多に行くことのなかった芝居を観る機会があり、シラーの『群盗』がモスクワの劇場にかけられていてフョードルに強烈な印象を残しました。ドストエフスキーは晩年1880年に、半世紀も前のその時の観劇の記憶と思い出を語り、いかに「幼年期の美の印象」が人の成長にとって重要かを論じています(『群盗』は、最晩年の『カラマーゾフの兄弟』の創作に重要な役割をはたします。またドストエフスキーは自分の子供たちにシラーを朗読して聞かせました)。

聖人、あの世の人とあだ名された学校時代

17歳、軍関係の学校では学問が強いペテルブルグの中央工兵学校(改称前は士官工兵学校)に入学。学校ではフョードルはフォチイ(聖人、謙虚な人、あの世の人の意)とあだ名される。学生時代、フョードルの心は校舎の中になく作家たちとともにあり、人間の秘密を解こうと取り組んでいた。もっともこの時期、フョードルは独り閉じていたわけでもなく、石版新聞の編集長を担い「文学の夕べ」を催していた。後に大蔵省に入るイワン-シドロフスキーとは文学を通じ良き友となる。話の話題は、ホメロスシェイクスピア、ホフマン、シラー、ユゴーゲーテコルネイユプーシキン、ジェルジャーヴィンの文学のことだった。18歳の時にはシラーの影響による戯曲『マリア・スチュアート』、プーシキンの影響を受けた『ボリス・ゴドゥーノフ』を書いています。

◉青年期:Topics◉16歳の時、母が肺結核の悪化で死去。もともと揺れの大きい父ミハイルの精神は憂鬱に襲われ急速に崩壊しはじめ、農夫たちに難癖をつけ鞭で打ちつけ狂気の沙汰に。結局、恨みをかった農夫たちに謀殺される(縛り上げ口にボロ切れを詰めて逃げた後、発見された時には亡くなっていた。発作で亡くなったとされた)。

▶今、読みたいドストエフスキーの小説はこちらからhttp://artbirdbook.com/Noindexold.html/MindTreefolder/dostoevsky.html

罪と罰 (上巻) (新潮文庫)
罪と罰 (上巻) (新潮文庫)工藤 精一郎

新潮社 1987-06
売り上げランキング : 4256

おすすめ平均 star
star生搾り
starソーニャに惚れました
star登場キャラクターについて。

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
罪と罰 (下巻) (新潮文庫)
罪と罰 (下巻) (新潮文庫)工藤 精一郎

新潮社 1987-06
売り上げランキング : 5320

おすすめ平均 star
star生搾り
starソーニャに惚れました
star登場キャラクターについて。

Amazonで詳しく見る
by G-Tools



オネーギン (岩波文庫 (32-604-1))
オネーギン (岩波文庫 (32-604-1))池田 健太郎

おすすめ平均
starsニートの悲劇』か。
stars失われた時、見出された時
starsダンテイーな独身男に一矢報いた田舎娘タチアーナ
stars人生は引き返せない
stars古さを感じません−結局二人とも人生に敗北した

Amazonで詳しく見る
by G-Tools