ミヒャエル・エンデの「Mind Tree」(2)- 落ちこぼれ、一家離散、挫折


NHKアインシュタイン・ロマン」に登場していた頃のM.エンデ

大戦中、一家は離散

▶(1)の続き:エンデ11歳の時、マクシミリアン・ギムナジウム(中高等学校)に入学します。ところが初年級で落第、絶望し11歳の時、自殺を試みようとまでします。この時期の深刻な体験が後のエンデの物語の落ちこぼれの主人公、登場人物に反映されていくことになります。14歳の時、母とも離れ生まれ故郷ガルミッシュの寮へ(皆に「収容所」と呼ばれていた場所)。この時(第二次大戦中)、エンデ一家は全員バラバラになってしまいます。エンデが詩や物語を創作しはじめたのはこの頃のことです。
ジムナジウムを1年で後にし、シュツットガルトにあるシュタイナー教育で知られる自由ヴァルドルフ学校に入学します。スクールの自由活発な空気はエンデの学校観を変えましたが、学校に対する反感や挫折感が深くしみ込みすぎたエンデには遅すぎたようです(エンデは10年後にシュタイナーの著作を読みだしています。父もかつてシュタイナーの著作を読んでいました)。

劇作し、演劇の道へ。ブレヒトの芸術理論での挫折。

ただ無意識のうちにシュタイナー教育は効果があったのか、エンデは劇作し、仲間を集めて芝居をはじめます。屋根裏部屋を借りて劇場につくり変えるほど打ち込みはじめました。両親の学資のめどがつかず大学進学をあきらめたこともエンデに拍車をかけました。エンデは演劇の道に向かってすすみだしました。19歳の時(1948年)、卒業試験の前に学校をやめ、ミュンヘン室内劇場付属オットー・ファルケンベルク俳優学校の入学試験を受け、合格します。俳優学校はエンデの家の経済事情をくみ授業料を免除します。21歳の時、世界的な演出家ブレヒトミュンヘン室内劇場で「肝っ玉おっ母とその子供たち」を演出、エンデも兵士役など端役で出演。魅せられたエンデは早々ブレヒトの演劇理論を研究しはじめました。
二年の俳優修行を終え、国家試験を終えると北ドイツ・レンツブルクにあるシュレースヴィヒ・ホルシュタイン州立劇場に採用されます。そしてバスで各地を訪れ小さな芝居を見せて回る「田舎芝居」をつづけます。幼少の頃に記憶されていた小さなサーカス一座と自身をどこかで重ね合わされていたかもしれません。半月ごとに次の芝居の台詞を暗記せねばならず、不十分な稽古と演技を続けながらも懸命に自作を書きつづけています。

演劇の評論家として活動

そして分身をテーマにした喜劇「サルタンの2乗」を書き上げ、その自信から劇場との契約を解除し売り込みましたが失敗します。22歳の時知り合っていた女優インゲボルク・ホフマン(恋人になります)や友人の紹介でミュンヘンの政治寄席の人と知り合いになり政治風刺の歌や寸劇を書くようになります。しかしこの頃、エンデ家は大変な事になっていました。
24歳の時に両親が離婚します。エンデは母を養うことになります(父は女弟子と暮らしだす)。じつはブレヒトの演劇理論に夢中になっていた頃のエンデは、父と芸術観の食い違いで衝突していました。そのことも父が家を離れる原因の一つにもなったようです。数年後、エンデは父を訪れ再び父の世界を理解しはじめます。26歳の時にシラー没後150年記念の芝居を書き、好評を博しミュンヘンの国民劇場など仕事がまわりだしました。バイエルン放送局の人とも知り合い、4年の間映画と演劇の評論家として活動し、文化教養番組も担当するようになります。
演劇関係の仕事は続けたものの、結局ブレヒトの革命的芸術論は、エンデの”マインド・ツリー”には適しませんでした。エンデ自身次のように語っています。「やればやるほど意識は研ぎすまされるものの創作の泉はすっかり枯渇して何も書けなくなってしまう」と。そしてものを書くことを断念しようとした矢先でした。エンデに「シンクロニシティー」が起こります。

◉少年期:Topics◉エンデがギムナジウムに入学した同じ頃、父も軍隊へ入隊し敗戦までケルンの高射砲対部隊に配属、内勤の画家となる。1944年、爆撃で父のアトリエにあった300点の絵が灰燼に。1945年、集団疎開の子供のうち14、15歳の少年が国防軍に徴兵され武装親衛隊になり一日訓練で前線に送られ、エンデの学友3人が戦死。エンデ、召集令状を破り捨て夜間に80キロ歩きミュンヘンの母のもとへ。エンデ一家はもともと反ナチスで、エンデ自身も家の近くのイエズス会士学院を通じ反ナチス抵抗組織「バイエルン自由行動」と連絡をとり、自身「伝書係」を引き受けていた。エンデの芸術感、世界観、基本的考えすべてにおいて父から教えられていた。『鏡の中の鏡』でも父の絵が18点収録され、父の絵画と息子ミヒャエルの文学世界が緊密につながっている。父の絵から受けたインスピレーションで物語や詩を書き、父も息子の作品に触発されて絵を描くこともあった。▶(3)へ続く

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